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新潟地方裁判所 平成2年(行ウ)1号 判決 1992年10月29日

新潟県長岡市中島四丁目一三番二〇号

原告(亡山口芳二訴訟承継人)

山口芳春

新潟県長岡市南町三丁目九番一号

被告

長岡税務署長 佐藤一男

右指定代理人

小池晴彦

藤村泰雄

有賀東洋男

青木茂

由井正昭

水品雅文

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が訴外亡山口芳二の昭和六二年分の所得税について昭和六三年一一月二一日付けでした更正のうち、分離長期譲渡所得金額を一〇八〇万二五一一円とする部分、納付すべき所得税額のうち三万五三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  訴外亡山口芳二(以下「芳二」という。)は、持分の全部をその家族で保有する訴外有限会社山口組(以下「山口組」という。)その代表取締役であり、同社のオーナー経営者であった。

2  芳二の昭和六二年分所得税(以下「本件所得税」という。)について、芳二のした確定申告、被告のした更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件決定」という。)並びにこれらに対する芳二のした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は、別表一のとおりである(なお、裁決書は、平成二年二月二五日芳二に送達された。)。

3  芳二は、平成三年四月二〇日に死亡し、原告が、芳二の権利義務を相続によって承継した。

よって、原告は、被告に対し、本件更正のうち、分離長期譲渡所得金額を一〇八〇万二五一一円とする部分及び納付すべき所得税額のうち三万五三〇〇円を超える部分並びに本件決定に不服があるから、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の事実は認める。

三  抗弁

1  本件更正の適法性

(一) 本件所得税に係る総所得金額及び分離長期譲渡所得金額並びに各算出の根拠は次のとおりである。

(1) 総所得税金額 二七二万五五五〇円

芳二が確定申告書に記載した額(不動産所得の金額及び給与所得の金額)である。

(2) 分離長期譲渡所得金額 一〇八〇万二五一一円

右所得金額の算出過程は別表二のとおりである。別表二の順号<1>ないし<5>の各金額の算出方法は、以下のとおりである。

ア 譲渡収入金額 三六〇七万六〇〇〇円

芳二が昭和六二年中に新潟県長岡市昭和一丁目二五六九番一二所在の土地(地目・宅地、面積・二六一平方メートル、以下「甲土地」という。)を訴外渡辺信夫に譲渡した譲渡代金一四五〇万円と、同年手中に長岡市中島四丁目五七番一〇所在の土地(地目・宅地、面積・二三七・七六平方メートル、以下「乙土地」という。)を訴外株式会社不二工務店に譲渡した譲渡代金二一五七万六〇〇〇円の合計金額である。

イ 取得費 二六二万九五四九円

右金額は、甲土地の取得費一五五万〇七四九円と乙土地の取得費一〇七万八八〇〇円の合計金額である。

ウ 譲渡費用 二〇八万五三一〇円

右金額は、甲土地の譲渡費用一一四万六七四〇円と乙土地の譲渡費用九三万八五七〇円の合計金額である。。

エ 特別控除 二〇五五万八六三〇円

右金額は、甲土地についての租税特別措置法(以下「措置法」という。)三一条四項による特別控除額一〇〇万円と乙土地についての措置法三五条による特別控除額一九五五万八六三〇円の合計金額である。

オ 分離長期譲渡所得金額 一〇八〇万二五一一円

右金額は、前記ア譲渡収入金額からイ取得費、ウ譲渡費用及びエ特別控除額を控除した金額である。

また、甲土地は、芳二が昭和四〇年から引き続きこれを所有し、昭和六二年一月一日において所有期間が一〇年を超えるものであるからその譲渡による所得は、措置法三一条一項により長期譲渡所得に該当する。

(二) 本件更正に係る総所得金額及び分離長期所得金額は、右(一)の総所得金額及び分離長期所得金額とそれぞれ同額であるから、本件更正は適法である。

2  本件決定の適法性

被告は、芳二が昭和六二年分に係る納付すべき税額を過少に申告していたので、本件更正によって納付すべきことになる税額二一六万円(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数切り捨て後のもの)を計算の基礎として、国税通則法六五条一項に基づき一〇〇分の一〇を乗じて算出した金額二一万六〇〇〇円に、同条二項に基づき、納付すべき税額二一六万円のうち五〇万円を超える部分の金額一六六万円に一〇〇分の五を乗じて算出した金額八万三〇〇〇円を加算した金額二九万九〇〇〇円を過少申告加算税として賦課決定したものであり、本件決定は適法である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1について

(一) (一)について

(1) (1)は認める。

(2) (2)のうち、分離長期譲渡所得が一〇八〇万二五一一円となること、譲渡収入金額が三六〇七万六〇〇〇円となることは争い、その余は認める。

(二) (二)は争う。

2  同2は争う。

五  再抗弁

1  芳二は、山口組の訴外第四ファクター株式会社(以下、「第四ファクター」という。)に対する二〇〇〇万円の借入債務について、甲土地に根抵当権を設定していたところ、芳二は、前記のとおり右甲土地を代金一四五〇万円で売却し、右売買代金金額を山口組の第四ファクターに対する二〇〇〇万円の債務に充当した。芳二は、これによって山口組に対し一四五〇万円の保証債務履行に伴う求償権(以下、「本件求償権」という。)を取得したが、芳二は、本件求償権は回収不能であるとして、昭和六三年三月一一日これを放棄し(以下「本件放棄」という。)、これに伴い、山口組は、昭和六三年四月期において本件求償権の額面に相当する金額を雑収入として経理処理した。

2  山口組の経営状況は、以下のとおりである。

(一) 山口組は、昭和五七年四月期から同六二年四月期まで六期間連続して損失を計上し、同月期末における山口組の累積負債超過額は、二六九四万円余りに及んでいた。さらにこの六期間に正常な経理方法で減価償却をし、また少額の仮設材料を棚卸資産として過大に見積もりしないときの実質上の山口組の累積負債超過額は、約五〇〇〇万円にも及んでいた。

(二) 山口組の収入金額の推移は、別表三のとおりであり、平成三年四月期には、収入が前年度に比し半減しており、明らかに収入面でも事実が縮小しているといえる。

(三) 山口組の純利益金額の推移は、別表三の「利益(損失)」欄記載のとおりであり、昭和六三年四月期には、利益を計上しているが、この純利益金額から、芳二が本件求償権を放棄したことに伴って雑収入として計上した一四五〇万円を控除し、さらに金融機関に対し山口組の資力があるかのように見せ掛ける目的で、経理上の操作をし、原材料として計上した仮設資材分約一四〇五万円を控除すると、実際は約七九〇万円の損失があったことになり、山口組に利益はなかった。

また、平成三年四月期は、生命保険金収入四〇〇万円及び土地譲渡収入約九八〇万円が計上されたにもかかわらず、二三九万一一三九円の利益が計上されているに過ぎなかったのであるから、通常の経営上の欠損は、約一一四〇万円であったというべきであり、しかも、通常であれば、死亡退職した芳二に対して一〇〇〇万円を超える相当額の退職金が支払われるところ、これも支払われていないのであり、以上の事情から同月期の繰越欠損金が二六四一万五二九八円に減じたのであり、経営が順調に推移した結果とはいえない。

(四) 山口組の財務内容は、別表四のとおりであり、形式上は、平成三年四月期に好転しているが、いわゆる資産の含み益を全て失い、実質的には、財務内容も悪化している。我が国における半数以上の法人が欠損法人であるにしても、それは資産に相当以上に含み益があり、さらに代表者にも相当の物的担保力が備わっていることが前提になっているが、山口組には資産の含み益もなく、代表者にも物的担保力がないから、自力での再建は客観的には不可能な状況である。

(五) 山口組の借入金残高の推移は、別表五のとおりであるところ、山口組が、長岡信用金庫、国民金融公庫及び新潟県信用組合から新たに借り入れできたのは、代表者以外の第三者の保証があったためであり、山口組に物的担保能力が充分あり、かつ山口組の企業としての活力・信用が充分あると認められたものではない。

また、平成三年四月期には、芳二からの借入金が約一六〇一万円増加し、その残高が二〇五一万九六三四円となっているが、その貸付原資は、<1>東光商事、日栄などの高利金融業者から一二二〇万円、<2>縁故者山口君江から二〇〇万円、<3>芳二の死亡に対する香典五九五万円、<4>芳二に対する報酬等未払い分三六万円となっており、この事実は、山口組には金融機関はもちろんのこと、高利金融業者からの借入能力もなく、やむを得ず芳二個人で借入して山口組に貸したり、香典を流用するほかなかったことを示すものであり、芳二及び原告が山口組からの回収が可能であると判断したものではない。

(六) したがって、芳二が求償権を放棄した昭和六三年三月当時、既に、倒産の方向に進んでいたというのが実態であり、その後も現在に至るまで同様の傾向が続いている(平成三年四月期に山口組が清算した場合、少なくとも三九五四万円もの債務超過となる。)というべきである。

3  所得税法(以下「法」という。)六四条二項の「保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」に該当するか否かは、求償権を取得した者が相当期間内に求償権を回収できるかどうかを基準にして検討されるべきであるところ、右相当期間とは、長くても七年間と解されるべきである。

前記1及び2の事情からすると、昭和六三年三月当時、七年以内に山口組の業績が好転し、他の債権者に全額弁済し、なお、実質上のオーナーであって代表取締役であった芳二に対し、本件求償権の全額を弁済することができないことは明らかであったから、本件放棄は、所得税法六四条二項に該当し、本件放棄によって行使することができないこととなった金額一四五〇万円は、同項、同条一項により本件所得税に係る分離長期譲渡所得の計算上なかったものとみなすべきである。

六  再抗弁に対する否認及び反論

1  再抗弁に対する否認

(一) 再抗弁1のうち、芳二が山口組の第四ファクターに対する二〇〇〇万円の借入債務について、甲土地に根抵当権を設定したこと、芳二が甲土地を代金一四五〇万円で売却したこと、昭和六三年三月一一日本件求償権を放棄したこと、これに伴い山口組は、昭和六三年四月期において本件求償権の顔面に相当する金額を雑収入として経理処理したことは認め、本件求償権が回収不能であることは否認し、その余の事実は不知。

(二) 同2について

(1) (一)のうち、山口組の営業報告書によれば、山口組が昭和五七年四月期から同六二年四月期まで六期間連続して損失を計上し、同月期末における山口組の累積負債超過額は、二六九四万円余りに及んでいたことは認めるが、その余の事実は不知。

(2) (二)のうち、山口組の営業報告書によれば、山口組の収入金額の推移が別表三のとおりであり、平成三年四月期には、収入が前年度に比し半減していることは認めるが、その余の事実は否認する。

(3) (三)のうち、山口組の営業報告書によれば、山口組の純利益金額の推移が別表三の「利益(損失)」欄記載のとおりであること、昭和六三年四月期には、利益を計上していること、平成三年四月期は、生命保険金収入四〇〇万円及び土地譲渡収入約九八〇万円が計上されていること、利益として二三九万一一三九円が計上されていること、芳二に対する退職金を計上していないこと、平成三年四月期の繰越欠損金が二六四一万五二九八円に減じたことは認め、その余の事実は否認する。

(4) (四)のうち、山口組の営業報告書によれば、山口組の財務内容が別表四のとおりであること、平成三年四月期に好転していること、我が国における半数以上の法人が欠損法人であることは認め、その余は事実に否認する。

(5) (五)のうち、山口組の営業報告書及び右営業報告書中の書込みによれば、山口組の借入金残高の推移が別表五のとおりであること、平成三年四月期には、芳二からの借入金が約一六〇一万円増加し、その残高が二〇五一万九六三四円となっていること、その貸付原資は、<1>東光商事、日栄などの高利金融業者から一二二〇万円、<2>縁故者山口君江から二〇〇万円、<3>芳二の死亡に対する香典五九五万円、<4>芳二に対する報酬等未払い分三六万円であることは認め、その余の事実まは否認する。

(6) (六)は否認する。

(三) 同3は争う。

2  再抗弁に対する反論

法六四条二項の「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」とは、主債務者が破産宣告を受けたり、和議手続の開始を受けたりしたこと、あるいは金融機関や大口債権者の非協力により事業再建の見通しがつかず、債務超過の状態が相当期間継続し、衰微した事業を再興させる公算が立たないこと、その他これに準ずる事情が生じたことにより、求償権を行使してもその目的が達せられないことが客観的に判断して確実になった場合を指称すると解するのが相当であるところ、主債務者である山口組は、芳二が本件求償権を放棄して以来、三年経過した平成三年四月期に至るも、破産宣告や和議開始決定がなされた事実がないことはもちろんのこと、その事業所を閉鎖した事実もなく、本来の事業を継続しており、また、芳二が本件求償権を放棄した昭和六三年三月一一日前後(昭和六〇年四月期から平成三年四月期までの間)における山口組の各決算期の確定申告書に添付されている営業報告書に基づき作成された別表三ないし五によると、平成三年四月期現在まで事業を縮小した事実はなく、以下のとおり、山口組の事実は概ね順調に推移しているから、本件に法六四条二項を適用する余地はない。

(一) 収入金額について

山口組の収入金額は、昭和六〇年四月期から平成二年四月期まで概ね漸増あるいは横ばいの傾向が続いている。なお、平成三年四月期の収入金額は、前年度に比して半減しているが、山口組のいわゆるオーナー経営者であった芳二が急死したという事情が強く影響したものと推測されることを考慮すれば、そのことが直に事業の縮小を意味すると認めるべきものではない。

(二) 純利益及び繰越決欠損金について

山口組は、昭和六三年四月期及び平成三年四月期の二期に渡って純利益を計上しており、また、昭和六二年四月期に三六九四万六五七六円あった繰越欠損金も平成三年四月期には二六四一万五二九八円に減少している。

(三) 財務内容について

昭和六一年四月期に二九三一万三三五七円であった純資産の欠損金額も、平成三年四月期に至り一六四一万五二九八円に減少している。

(四) 借入金について

(1) 昭和六〇年四月期に約一億二八七一万円であった借入残高も、平成元年四月期に約七〇四〇万円まで減少し、平成三年四月期には約八七〇六万円となっている。

(2) 山口組は、芳二から債務免除を受ける直前の昭和六三年三月ころに国民金融公庫から四〇〇万円を借入れたほか、平成元年四月期には、第四銀行からの長・短期の借入金五二二九万円を返済すると共に、長岡信用金庫中島支店から長・短期合計約四六五一万円を、国民金融公庫から約三二二万円を、新潟中央銀行長岡支店から四〇〇万円を借り入れ、平成二年四月期には、長岡信用金庫中島支店から約八〇〇万円を借り入れ、平成三年四月期には、大光相互銀行本店から二〇〇万円を、国民金融公庫から約五九六万円をそれぞれ借り入れる一方、長岡信用金庫中島支店に約一二二五円を返済している。

(3) 以上のとおり、山口組が本件求償権の放棄の前後において、金融機関との関係で新たな借入れを受けたり、借入金の返済をしたりしていることは、山口組の事業についての活力信用が金融機関から認められていたことを示すものであり、また、山口組は、長岡信用金庫からいわゆる肩代わり融資を受けるなど、金融機関の協力の下で業績回復の努力を行っているのであるから、山口組の経営状態が悪化し、会社再建のための金融機関の協力が得られない状況にあったとは認められない。

さらに、平成三年四月期には、山口組の芳二からの借入金が約一六〇〇万円増加しているが、このことは芳二あるいはその相続人が山口組に対する融資について、その回収が可能であるとの判断のもとに山口組の事業活動を継続する意思を有していることを推測させるものである。

第三証拠

本件記録中に証書目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1ないし3の各事実は、当事者間に争いがない。

二  本件更正の適否について

1  抗弁1(本件更正の適法性)(一)(1)(総所得金額)の事実、同2(分離長期譲渡所得金額)のうち、分離長期譲渡所得が一〇八〇万二五一一円となること及び譲渡収入金額が三六〇七万六〇〇〇円となることを除くその余の事実並びに再抗弁1のうち、芳二が山口組の第四ファクターに対する二〇〇〇万円の借入債務について、甲土地に根抵当権を設定したこと、芳二が甲土地を代金一四五〇万円で売却したこと、昭和六三年三月一一日本件求償権を放棄したこと及びこれにより、山口組は、本件求償権の額面に相当する金額を雑収入として経理処理したことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  甲二、三、四3、五、七及び弁論の全趣旨によれば、芳二は、昭和六二年五月八日、甲土地の譲渡代金一四五〇万円を山口組の右1の二〇〇〇万円の借入債務の返済に充て、もって一四五〇万円の本件求償権を山口組に対して取得したことを認めることができる。

原告は、これについて、本件求償権の全部を放棄し、これを行使することができないこととなったから、本件求償権の額に対応する部分の金額は、法六四条二項、一項により、本件所得税に係る分離長期譲渡所得の計算上なかったものとみなすべきである旨主張する。

そこで、本件求償権はその全部を行使することができないこととなったかどうかにつき検討する。

(一)  法六四条二項の「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」とは、主債務者が破産宣告を受けたり、和議手続の開始を受けたりしたこと、あるいは、金融機関や大口債権者の非協力により事業再建の見通しがつかず、債務超過の状態が相当期間継続し、衰微した事業を再興させる公算が立たないこと、その他これに準ずる事情が生じたことにより、求償権を行使してもその目的が達せられないことが客観的に判断して確実になった場合を指称すると解するのが相当であり、したがって、そのような事情にないときは、求償債権の行使が可能であるから、求償債権の放棄に対して、法六四条二項を適用することはできないと解される。

(二)  甲九1、2、一〇、一一、一二1、2、一三ないし一八及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 山口組の昭和六〇年四月期から平成三年四月期までの<1>営業損失、<2>財務内容、<5>借入金残高の各推移は、それぞれ、別表三ないし五のとおりである。

(2) 山口組は、昭和五七年四月期から同六二年四月期まで、六期連続して損失を計上している(同五七年四月期が四二七万円、同五八年四月期が一二四五万円、同五九年四月期が九三一万円、いずれも一万円未満を切り捨てた。同六〇年から同六二年の各四月期については、別表三の「利益(損失)」欄のとおり。)。

(3) 平成三年四月期の収入には、芳二の死亡に伴う生命保険金収入及び土地譲渡収入が含まれており、また、芳二は、平成三年四月二〇日死亡により山口組を退職したが、芳二に対する退職金の支払については、山口組の同月期における決算報告に計上されていない(但し、右計上されていないことは、当事者間に争いがない。)

以上認定した事実によれば、山口組は、芳二が本件求償債権を放棄した昭和六三年四月期までの決算報告上債務超過の状態が継続し、資金繰りも悪化していたこと、その後も平成三年四月期現在に至るまで債務超過の状態が継続していることが認められ、したがって昭和六三年三月当時、芳二が山口組に対し、本件求償権を行使したとしても直ちにこれに応じることは資金的に困難であったということができる。

(三)(1)  他方、甲七、一〇、一二1、一四ないし一八及び弁論の金趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

ア 昭和六三年四月期当時において、山口組に対して破産宣告や、和議開始が開始されたり、山口組振出の手形が不渡になるなどの事実はなく、現在に至るまで事業を継続しいる。

イ 山口組は、少なくとも、平成二年四月期までは概ね順調に売上高(収入)を増加させ、山口組が事業を縮小した事実はない。

ウ 山口組は、平成元年四月期には、長岡信用金庫等からいわゆる肩代わり融資を受けるなどして、山口組の第四銀行に対する債務を完済し、また、昭和六三年四月期から現在に至るまで、大光銀行、国民金融公庫、新潟中央銀行及び新潟県信用組合等からも新たな借入をし、金融機関の協力の下で業績回復の努力を行っている。

エ 山口組の芳二に対する借入債務は、昭和六三年四月期において一五三七万九一三三万円あったが、山口組はこれを返済し、平成元年四月期には七二万二三〇四円になっており、また、山口組の借入金残高合計も、昭和六〇年四月期に一億二八七一万〇七三〇円であったものが、返済されて平成元年四月期には七〇四〇万三七八四円になっている。そして、山口組は、芳二の本件求償権以外に、債務の免除を受けたことはなく、芳二も、本件求償権以外は山口組に対する債権を放棄した事実はない。

(2)  原告は、山口組の経理について、正常な経理方法で、減価償却をし、また少額の仮設材料を棚卸資産として過大に見積りしないときの実質上の山口組の累積負債超過額は、昭和六二年四月期で約五〇〇〇万円に及んでおり、また、山口組は、平成三年四月期には資産の含み益をすべて失い、山口組が同期において清算した場合、少なくとも三九五四万円もの債務超過となる旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(3)  原告は、昭和六三年四月期には、利益を計上しているが、この純利益金額から芳二が本件求償権を放棄したことに伴って雑収入として計上した一四五〇万円を控除し、さらに金融機関に対し山口組に資力があるかのように見せ掛ける目的で、経理上の操作をし、原材料として計上した仮設資材分約一四〇五万円を控除すると、実際は約七九〇万円の損失があったことになり、山口組に利益はなかった旨主張するが、仮に、右約一四〇五万円がすべて経理操作の対象であったとしても、甲九2、一六、一七による、山口組が昭和六三年四月期の一年間に新たに経理操作をした額は、約一三一万円にすぎないから、右原告の主張は失当である。

(4)  原告は、山口組が、長岡信用金庫、国民金融公庫及び新潟県信用組合から新たに借り入れできたのは、代表者以外の第三者の保証があったためであり、山口組に物的担保能力が充分であり、かつ山口組の企業としての活力、信用が充分あると認められたものではない旨主張するが、仮に代表者以外の第三者の保証があったとしても、銀行は、それのみにとどまらず、山口組の資産状況についても充分に検討した上で、貸付を行っているものと考えられるし、また、代表者以外の第三者の協力が得られること自体、山口組の企業としての活力、信用が評価されたことになるのであって、少なくとも、山口組の事業再建の見通しがないことの証拠とはなりえないものである。

(5)  右(1)で認定した事実を総合すると、山口組が昭和六三年三月当時、芳二が山口組に対し、本件求償権を行使したとしても直ちにこれに応じることは資金的に困難であったということができるとしても、なお、右の当時、芳二が山口組に対して本件求償権を行使しても、回収の見込みがないことが確実な状況までは至っていたものと認めるには不十分であり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(6)  なお、原告は、法六四条二項の「保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」に該当するか否かは、求償権を取得した者が相当期間内に求償権を回収できるかどうかを基準にして検討されるべきであるところ、右相当期間とは、長くても七年間と解されるべきである旨主張するが、同条項をそのように限定的に解釈する法的根拠は存在しないし、かえって、本件求償権を行使しても、回収の見込みがないことが確実な状況にまでは至っていたものと認められない場合には、一定期間(七年間)内に求償権を回収できなくても、合理的経済人がその後の回収に期待せず、直ちにその求償権を放棄するのが通例であるとも考えられないから、右原告の主張は失当である。

(四)  したがって、本件更正は、適法である。

三  本件決定の適否について

前記争いのない事実に右二の検討結果を総合すれば、山口組の昭和六二年分の分離長期譲渡所得は、一〇八〇万二五一一円、本件更正によって、原告が新たに納付すべき税額は、二一六万円(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数切り捨ての後のもの)と計算される。

したがって、国税通則法六五条一項に基づき右新たに納付すべき税額に一〇〇分の一〇を乗じて算出した金額二一万六〇〇〇円に、同条二項に基づき、納付すべき税額二一六万円のうち、五〇万円を超える部分の金額一六六万円に一〇〇分の五を乗じて算出した金額八万三〇〇〇円を加算した金額二九万九〇〇〇円を過少申告加算税として賦課決定した本件決定は適法である。

四  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 太田幸夫 裁判官 戸田彰子 裁判官 永谷典雄)

別表一

<省略>

別表二

<省略>

別表三

<省略>

別表四

<省略>

別表五

山口組の借入金残高の昭和60年4月期から平成2年4月期までの推移

<省略>

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